UX初学者エンジニア向け!デザインシステム活用の基本とおすすめツール
はじめに
ユーザーを中心としたプロダクト開発において、デザインと開発の連携は避けて通れないテーマです。特に、デザインやUXに関する専門知識が少ないITエンジニアの方にとって、デザイナーとのコミュニケーションや、一貫性のあるユーザーインターフェース(UI)の実装は時に課題となることがあります。
そこで注目されているのが「デザインシステム」です。デザインシステムは、単なるUIコンポーネント集やスタイルガイドではなく、プロダクト開発全体を支える包括的なルール、原則、制約、そして再利用可能な要素の集合体です。適切に構築・活用されたデザインシステムは、開発効率を飛躍的に向上させ、プロダクト全体のUI/UX品質を均一に保つ上で強力な味方となります。
この記事では、デザインシステムとは何か、それがUX初学者であるITエンジニアの方にとってなぜ重要なのか、そして実際の開発でどのように活用できるのかを解説します。さらに、デザインシステムの構築や活用に役立つ具体的なツールもご紹介し、皆さんがデザインシステムを日々の業務に取り入れ、開発効率とユーザーにとっての使いやすさの両立を実現するための一助となることを目指します。
デザインシステムがUX初学者エンジニアに役立つ理由
デザインシステムは、UI/UXの専門知識が少ないエンジニアの方にとって、様々なメリットをもたらします。
1. デザイン原則とUIの共通理解を深める
デザインシステムには、プロダクト全体のデザイン原則やUIの設計思想が言語化され、具体的なコンポーネントやパターンとして示されています。これにより、エンジニアは単にデザイナーから渡されたデザインを実装するだけでなく、「なぜそのようなデザインになっているのか」「どのような意図があるのか」といった背景にある考え方を学び、理解することができます。これは、UIの実装判断に迷った際や、デザインシステムに存在しない新たな要素を実装する際に非常に役立ちます。
2. UI実装の一貫性を保つ
デザインシステムで定義された共通のUIコンポーネントやスタイル(色、タイポグラフィ、スペーシングなど)を使用することで、プロダクト全体でUIの一貫性を容易に保つことができます。手作業でスタイルを都度定義したり、類似しているが微妙に異なるコンポーネントを複数作成したりといった状況を防ぎ、ユーザーがどの画面を開いても迷わない、統一感のある体験を提供することに貢献します。
3. 開発効率と保守性の向上
標準化されたコンポーネントを再利用することで、ゼロからUIを実装する手間が省け、開発スピードが向上します。また、変更が必要になった場合も、デザインシステム側の定義を更新するだけで、それを参照している複数の箇所に反映されるため、保守が容易になります。これは、機能開発に集中したいエンジニアにとって大きなメリットです。
4. デザインと開発の連携促進
デザインシステムは、デザイナーとエンジニア間の共通言語として機能します。デザインツール上のコンポーネントと、実際にコードとして実装されたコンポーネントが対応しているため、デザインハンドオフがスムーズになり、仕様に関する誤解を減らすことができます。
デザインシステムの主要な構成要素(エンジニア視点)
デザインシステムは多岐にわたる要素で構成されますが、エンジニアが日々の開発で特に関わる可能性のある主要な要素をいくつかご紹介します。
- デザイン原則とガイドライン: プロダクトのUI/UXに関する基本的な考え方や、デザインを行う上でのルールです。例えば、「シンプルであること」「アクセシブルであること」といった抽象的なものから、特定の操作に関するガイドラインまで様々です。
- ビジュアルスタイル: 色のパレット、タイポグラフィの階層、スペーシングのルール、アイコンスタイルなど、プロダクトの視覚的なアイデンティティを定義します。多くの場合、これらのスタイルはコードで再利用可能な変数やトークンとして定義されています。
- UIコンポーネント: ボタン、フォーム入力、モーダル、ナビゲーション要素など、ユーザーインターフェースを構成する基本的な部品です。各コンポーネントには、見た目、振る舞い、使用上のルール、利用可能なプロパティやイベントなどが定義されています。エンジニアはこの定義に基づいてコンポーネントを実装し、再利用します。
- パターン: 複数のコンポーネントを組み合わせて実現される、より複雑なUIの塊や、特定のユーザー体験を実現するための共通的なインタラクションパターンです。例えば、「検索結果の表示パターン」「エラーメッセージの通知パターン」などがあります。
- ドキュメント: デザインシステムの各要素に関する説明、使用例、コードスニペットなどがまとめられたリファレンスです。エンジニアはここを参照して、コンポーネントの使い方やデザイン原則を理解します。
- コードライブラリ: デザインシステムで定義されたUIコンポーネントやスタイルを、特定の技術スタック(例: React, Vue, Angular)で実装したものです。エンジニアはこれを依存関係としてプロジェクトに組み込み、コンポーネントをインポートして使用します。
デザインシステムを開発で活用する具体的なステップ
デザインシステムを日々の開発に組み込むための基本的なステップをご紹介します。
1. デザインシステムの存在を知り、ドキュメントを確認する
まず、開発に関わるプロダクトにデザインシステムが存在するかを確認します。存在する場合は、そのドキュメントサイトやリポジトリの場所を確認します。デザインシステムのドキュメントは、エンジニアが最初に参照すべき情報源です。どのような原則があり、どのようなコンポーネントやスタイルが定義されているのかを把握します。
2. コードライブラリをプロジェクトに導入する
デザインシステムがコードライブラリとして提供されている場合、パッケージマネージャー(npm, yarnなど)を使ってプロジェクトにインストールします。これにより、デザインシステムで定義されたコンポーネントやスタイルを、自分のコードからインポートして使用できるようになります。
3. 定義されたコンポーネントやスタイルを使用する
開発を進める中でUIを実装する際には、可能な限りデザインシステムで提供されているコンポーネントやスタイルを使用します。例えば、ボタンが必要なら <Button>
コンポーネントを、プライマリーカラーを使いたいなら定義済みのカラートークンを使用するといった形です。ドキュメントを参照しながら、コンポーネントのプロパティ(props)や利用可能なオプションを理解し、適切に組み合わせていきます。
4. 新たなUI要素が必要な場合の対応
デザインシステムに存在しない、全く新しいUI要素が必要になった場合は、まずそれがデザインシステムの原則に沿っているか、既存のコンポーネントやパターンで実現できないかを検討します。その後、デザイナーと連携し、デザインシステムに新しい要素を追加するプロセスがあるか確認します。多くの場合は、デザイナーがデザインツールで新しいコンポーネントを作成し、その後エンジニアがそれをコードとして実装してデザインシステムに追加するという流れになります。
デザインシステム活用に役立つツール/リソース
デザインシステムの構築や、エンジニアがデザインシステムを利用する上で役立つツールやリソースは多数存在します。
Storybook
- 概要: UIコンポーネントを隔離された環境で開発、テスト、ドキュメント化するためのツールです。様々な状態のコンポーネントをカタログとして表示し、インタラクティブに操作できます。
- なぜエンジニアに役立つか: 開発中のコンポーネントを単体で確認できるため、UIの状態管理やバグの特定が容易になります。また、コンポーネントの利用方法やプロパティを自動でドキュメント化する機能があり、他のエンジニアやデザイナーに共有する際の強力なツールとなります。デザインシステムをコードとして実装する際の中心的なツールの一つです。
- 活用シーン: 新しいコンポーネントを開発する際、既存コンポーネントの動作を確認する際、チーム内でコンポーネントの仕様を共有する際。
ドキュメンテーションプラットフォーム(Zeroheight, Slabなど)
- 概要: デザインと開発のリソースを一元化し、デザインシステムのドキュメントを構築・管理するためのSaaSツールです。Figma, Sketch, Adobe XDなどのデザインツールや、Storybook, GitHubなどの開発ツールと連携し、常に最新の情報を同期できます。
- なぜエンジニアに役立つか: デザインと開発の情報が同じ場所で整理されており、エンジニアは最新のデザイン仕様、コンポーネントのドキュメント、関連するコードスニペットなどを容易に見つけることができます。情報探索のコストが減り、デザインシステムに基づいた開発がスムーズになります。
- 活用シーン: デザインシステムの全体像を理解する際、特定のコンポーネントの使い方やデザイン原則を確認する際、デザインと開発の連携を円滑にする際。
コードコンポーネントライブラリ(Material UI, Ant Designなど)
- 概要: 一般的に利用されるUIコンポーネントを、特定のフレームワーク(React, Vue, Angularなど)向けに事前に実装・提供しているライブラリです。これら自体が一種のデザインシステムとして機能する場合や、自社のデザインシステムを構築する際の基盤となる場合があります。
- なぜエンジニアに役立つか: ゼロからUIコンポーネントを実装する手間を省き、高品質でアクセシビリティにも配慮されたコンポーネントをすぐに利用できます。多くの実績があり、利用方法のドキュメントも充実しているため、学習コストも比較的低く抑えられます。
- 活用シーン: 新しいプロジェクトを素早く立ち上げる際、自社独自のコンポーネントが必要ない汎用的なUIを実装する際、デザインシステム構築の参考にしたい際。
デザインツール(Figma, Sketch, Adobe XD)
- 概要: デザイナーがUIデザインを作成する際に主に使用するツールですが、デザインシステムを定義・管理するプラットフォームとしての役割も担います。コンポーネント、スタイル、アセットなどを一元管理し、デザイナー間で共有します。
- なぜエンジニアに役立つか: エンジニアもこれらのツールにアクセスし、デザイナーが定義したデザインシステムを確認することができます。デザインの仕様(サイズ、スペーシング、色コードなど)を正確に取得し、コード実装の参考にします。特にFigmaのようなツールは、開発者向けの検査機能が充実しており、エンジニアがデザイン情報を取得しやすい設計になっています。
- 活用シーン: デザインシステムの仕様を確認する際、デザイナーとUIに関する詳細なコミュニケーションを行う際、デザインと実装の差異を確認する際。
まとめ
デザインシステムは、単に見た目を整えるだけでなく、プロダクト開発の効率化、UIの一貫性確保、そして結果としてユーザー体験の向上に大きく貢献する重要な概念です。UX初学者であるITエンジニアの方にとって、デザインシステムはUI/UXに関する共通理解を深め、より効率的に、そしてより質の高いプロダクトを開発するための強力なツールとなり得ます。
まずは、皆さんが関わるプロダクトにデザインシステムが存在するかを確認し、そのドキュメントに目を通すことから始めてみてはいかがでしょうか。そして、この記事で紹介したStorybookのようなツールを活用して、デザインシステムのコンポーネントを実際に触ってみることで、より具体的な理解が進むはずです。
デザインシステムを日々の開発に取り入れることで、開発効率とユーザーにとっての使いやすさという、一見相反するように思える二つの目標を同時に追求することが可能になります。ぜひ、デザインシステムを皆さんの「UXツールボックス」に加えてみてください。