UX初学者エンジニア向け!ユーザーに伝わる文章を書くUXライティングの基本とツール
はじめに
ウェブサイトやアプリケーション開発に携わるITエンジニアの皆様の中には、ユーザーインターフェース(UI)上のテキスト、例えばボタンのラベル、エラーメッセージ、説明文、ヘルプテキストなどを記述する機会がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。ユーザーがプロダクトをスムーズに理解し、迷わず操作できるかどうかは、これらのテキストに大きく左右されます。
しかし、デザインやUXに関する専門知識がない場合、「どのような言葉を選べば良いのか」「どう書けばユーザーに正しく伝わるのか」といった点で悩むことも少なくないかもしれません。ここで重要になるのが「UXライティング」という考え方です。
UXライティングとは、プロダクトを通じてユーザーが目標を達成できるように導くことを目的としたライティングスキルです。単に正確な情報を提供するだけでなく、ユーザーの文脈や感情を理解し、適切なトーンと分かりやすい言葉でコミュニケーションを図ります。これは、ユーザー体験(UX)の質を決定づける重要な要素の一つです。
本記事では、UXデザインやライティングの専門知識が少ないITエンジニアの皆様に向けて、UXライティングの基本的な考え方と、日々の開発業務で実践に役立つツールやリソースをご紹介します。ユーザーに「伝わる」UIテキストを作成するための一歩を踏み出す参考にしていただければ幸いです。
UXライティングとは何か? なぜエンジニアにとって重要なのか?
UXライティングは、ユーザーがデジタルプロダクトを快適に利用できるよう、インターフェース上のあらゆるテキスト(マイクロコピーとも呼ばれます)を設計する行為です。ログインボタンのラベルから、エラーメッセージ、フォームの入力指示、チュートリアルまで、ユーザーが目にする全ての言葉がUXライティングの対象となります。
なぜこのUXライティングがITエンジニアにとって重要なのでしょうか。
- ユーザーの理解促進と操作性の向上: 明確で分かりやすいテキストは、ユーザーが画面上の要素の意味をすぐに理解し、次に何をすべきかを判断する手助けとなります。これにより、ユーザーは迷うことなくスムーズに目的を達成できます。
- エラーの削減とユーザーのストレス軽減: エラーメッセージが具体的で解決策を示唆している場合、ユーザーは問題の原因を特定しやすくなります。一方、不明瞭なエラーメッセージはユーザーを混乱させ、ストレスを与え、離脱につながる可能性があります。
- プロダクトの信頼性向上: 一貫性があり、正確で、親切な言葉遣いは、プロダクト全体の信頼性を高めます。ユーザーは「このプロダクトはユーザーのことを考えて作られている」と感じ、安心感を持ちます。
- 開発効率への貢献: UIテキストの曖昧さは、仕様に関する誤解を生み、手戻りや修正のコストにつながることがあります。最初から意図が明確に伝わるテキストを記述することで、開発チーム内のコミュニケーションも円滑になります。
- チームコラボレーションの促進: デザイナー、プロダクトマネージャー、カスタマーサポートなど、様々な役割のメンバーが共通理解を持つ上で、UIテキストの基準や表現ルールは重要な役割を果たします。エンジニアがUXライティングを意識することで、より建設的な議論に参加できます。
このように、UXライティングは単なる文章作成スキルではなく、ユーザー中心のプロダクト開発においてエンジニアが直接的に貢献できる重要な領域です。
UXライティングの基本的な考え方
UXライティングにはいくつかの基本的な原則があります。これらを知っておくだけでも、UIテキスト作成時の意識が変わるはずです。
- 明確さ(Clarity): 最も重要な原則です。ユーザーが一目でテキストの意味を理解できるように、曖昧な表現や専門用語を避け、具体的で直接的な言葉を使います。
- 例: 「処理が失敗しました」ではなく「ファイルの種類が正しくありません。PNGまたはJPG形式でアップロードしてください。」のように、何が起きたか、どうすれば良いかを明確に伝える。
- 簡潔さ(Conciseness): 限られたUIスペースの中で、情報を効率的に伝えるためには簡潔さが求められます。不要な単語を削り、短く分かりやすいフレーズを心がけます。
- 例: 「このボタンをクリックすると、設定を保存できます」ではなく「設定を保存」のように、必要な情報だけをシンプルに提示する。
- 一貫性(Consistency): プロダクト全体で言葉遣いや表現のルールを統一します。同じ意味で複数の言葉を使ったり、ボタンのラベルスタイルが異なったりすると、ユーザーは混乱します。
- 例: 設定画面への遷移ボタンは全て「設定」とする。「環境設定」「オプション」など混ぜない。
- 有用性(Usefulness): テキストがユーザーのタスク達成に役立つ情報を提供しているか確認します。ユーザーが次に取るべき行動を促したり、必要な情報を提供したりします。
- 例: 入力フォームで「入力してください」だけでなく、「パスワードは8文字以上で入力してください」のように、具体的な形式や条件を示す。
- ユーザーの言葉を使う: ターゲットユーザーが日常的に使う言葉や、彼らが理解しやすいであろう表現を選びます。社内用語や開発者用語は避けます。
- 肯定的な表現を使う: 可能な限り、否定的な表現よりも肯定的な表現を使います。「〜できません」よりも「〜してください」や「〜が必要です」のように、次に取るべき行動を示す表現の方がユーザーは前向きに進めます。
これらの原則を意識することで、よりユーザーフレンドリーなUIテキストを作成できるようになります。
デザイン思考・UXデザインプロセスでのUXライティングの活用
UXライティングは、プロダクト開発プロセスの様々な段階で重要になります。
- 共感・定義: ユーザーインタビューやアンケート結果から、ユーザーがどのような言葉を使うか、どのような課題を抱えているかを理解します。これにより、ユーザーにとって自然で分かりやすい言葉遣いのヒントが得られます。
- アイデア発想: 新しい機能や画面のアイデアを出す際、その操作フローをユーザーにどう伝えるか、どのような言葉で誘導すればスムーズかをブレインストーミングします。
- プロトタイプ作成: ワイヤーフレームやプロトタイプに仮のテキスト(コピー)を流し込みます。この段階で「このボタンで何ができる?」「この説明で分かる?」といった視点でレビューすることで、デザインや機能の課題が早期に見つかることがあります。
- テスト: ユーザビリティテストでは、ユーザーがUIテキストを読んで期待通りに操作できるか、エラーメッセージの意味を理解できるかなどを観察します。ここで得られたフィードバックを元に、テキストの改善を行います。
特にエンジニアにとっては、プロトタイプ実装時や、実装後のレビュー・テスト段階で、テキストの適切さを確認することが実践的な取り組みとなります。
UXライティングの実践に役立つツール・リソース
専門のライターがいなくても、UXライティングの質を高めるために役立つツールやリソースが存在します。ここでは、特にUX初学者のエンジニアでも導入しやすいものを中心にご紹介します。
1. テキストチェック・校正ツール
記述したUIテキストの誤字脱字、文法の誤り、表現の揺れなどをチェックするツールは、品質担保の基礎となります。
- 日本語校正ツール (オンラインサービス):
- 特定のウェブサイトで文章を入力すると、誤りや改善点を指摘してくれるサービスです。無料で使えるものが多数あります。表現の適切さや、敬体の統一などもチェックできるものがあります。
- 活用シーン: UIテキストを記述した後、リリース前に最終チェックを行う。チームメンバーとレビューする前に自身で品質を高める。
- エンジニアにとってなぜ役立つか: 手軽に文章の基本的な品質を確認できます。日本語の記述に自信がない場合でも、一定レベルの品質を保つ助けになります。
- エディタ/IDEの校正機能・プラグイン:
- お使いのテキストエディタや開発環境に、校正機能や対応するプラグインを導入することで、コーディング中にリアルタイムでテキストチェックを行うことができます。
- 活用シーン: コード内のコメントやUIに表示される文字列を記述する際に、その場で間違いや不備を指摘してもらう。
- エンジニアにとってなぜ役立つか: 普段使い慣れた環境でチェックができるため、導入のハードルが低いです。開発フローの中に自然に校正を取り入れられます。
2. スタイルガイド・用語集作成ツール
チーム内でUIテキストのルールや言葉遣いを統一するために役立ちます。特に複数人で開発を進める際には必須と言えます。
- 情報共有ツール (Confluence, Notionなど):
- チームで利用しているWikiやドキュメンテーションツールを使って、UIテキストのスタイルガイド(例: ボタンのラベルは大文字始まりか小文字始まりか、句読点のルールなど)や用語集を作成・共有します。
- 活用シーン: 新しいUI要素を追加する際に、既存のスタイルガイドを参照する。定義に迷う言葉があった場合に用語集を確認する。チーム内で定期的にスタイルガイドを見直し、改善する。
- エンジニアにとってなぜ役立つか: 既にチームで導入しているツールを流用できるため、コストがかかりません。ドキュメントとして管理することで、チーム全体で共通認識を持ちやすくなります。
- 専用のスタイルガイドツール:
- より大規模な組織向けですが、UIコンポーネントと合わせてテキストルールを管理できるデザインシステムツールの中に含まれている場合や、独立したツールもあります。
- 活用シーン: プロダクトの規模が大きく、デザインシステムの一部としてUIテキストのルールを厳密に管理したい場合。
3. 共感・ユーザー理解に役立つリソース活用
ユーザーがどのような言葉を使うか、何に困っているかを知ることは、適切なUIテキストを書く上で非常に重要です。既存のUXリサーチツールやリソースを、ライティングの視点で活用します。
- ユーザーインタビュー/アンケート結果:
- 既存のユーザーインタビュー記録やアンケートの自由記述回答などを読み返し、ユーザーがどのような言葉でプロダクトについて語っているか、どのような課題や感情を抱いているかに注目します。
- 活用シーン: 新しい機能のUIテキストを作成する前に、関連するユーザーの声を確認し、ユーザーの言葉遣いや思考パターンを理解する。
- エンジニアにとってなぜ役立つか: ユーザーの生の声に触れることで、プロダクトに対するユーザーの認識や期待を深く理解でき、より共感的なライティングが可能になります。
- カスタマーサポートへの問い合わせ履歴/FAQ:
- ユーザーがどのような点について問い合わせているか、どのような言葉で質問しているかを確認します。これは、プロダクトの分かりにくい部分や、ユーザーがよく使う言葉を知るための宝庫です。
- 活用シーン: 特定の機能に関するエラーメッセージやヘルプテキストを作成する際に、過去の問い合わせ内容を参考に、ユーザーが実際に使うであろう言葉や、つまずきやすいポイントを盛り込む。
- エンジニアにとってなぜ役立つか: ユーザーが実際に困っているポイントが具体的に把握でき、本当に必要な情報を盛り込んだ、役に立つテキストを作成できます。
実践への一歩:UXライティングを始めるためのステップ
専門家でなくとも、日々の開発業務の中でUXライティングを実践するための簡単なステップをご紹介します。
- 現状のUIテキストをレビューする:
- ご自身が担当している画面や機能のUIテキストを改めて読んでみてください。「これは誰に向けたメッセージか?」「ユーザーはこれを読んで次に何をすべきか明確か?」「専門用語を使っていないか?」といった視点でチェックします。
- 先ほど紹介したオンライン校正ツールなどを利用して、基本的な誤りがないか確認するのも良いでしょう。
- 小さな改善から始める:
- 一度に全てのUIテキストを完璧にしようとせず、まずは担当している機能や、特にユーザーからの問い合わせが多い、あるいはユーザビリティテストでユーザーが迷った箇所など、影響範囲が限定的で改善効果が見込みやすい箇所から取り組みます。例えば、特定のエラーメッセージを分かりやすく書き換える、ボタンのラベルをより行動喚起的に変更するなどです。
- チーム内で共有・協力する:
- 作成したスタイルガイドや用語集をチームメンバーと共有し、活用を促します。また、他のエンジニアやデザイナー、プロダクトマネージャーにUIテキストのレビューを依頼するのも有効です。「この表現で意図が伝わりますか?」と尋ねてみましょう。
- ユーザーの反応を観察する:
- UIテキストを変更した後、ユーザーの行動(例えば、エラーからの復旧率が上がったか、特定の機能の利用率が変わったかなど)やフィードバック(問い合わせ内容の変化など)を観察します。定量的なデータ分析ツールやフィードバック収集ツール(既存記事で紹介されています)が役立ちます。
まとめ
UXライティングは、プロダクトの使いやすさやユーザー体験に直接的に影響する重要な要素です。UIデザインやUXの専門知識が少ないITエンジニアの方々でも、UXライティングの基本的な考え方を知り、ここでご紹介したようなツールやリソースを活用することで、ユーザーに「伝わる」より良いUIテキストを作成することが可能です。
まずはご自身の担当箇所のUIテキストに意識を向け、小さな改善から始めてみてください。そして、校正ツールで品質を担保したり、情報共有ツールでチーム内のルールを整備したりすることで、プロダクト全体のUX向上に貢献できるはずです。ユーザーの視点に立ち、言葉を通じてユーザーを導く意識を持つことが、より良いプロダクト開発への一歩となります。
本記事が、皆様がUXライティングを学び、日々の実践に取り入れるための一助となれば幸いです。